「全面的時価評価としての公正価値会計の監査可能性の研究」は、部分的時価評価から全面的時価評価への動きが見られる中で、仮に全面的時価評価が導入されるとしたときには、公正価値をいかに正確に把握するかが極めて重要となるとともに、その会計情報の信頼性の保証をいかに高めるかが要求されることになるため、それらの論点を明確にすることにある。もともと経営者責任と監査人責任はそれぞれ別次元の責任であるとする二重責任の原則を前提に、会計と監査は存在している。全面的時価評価としての公正価値の測定には、将来見積もりなど主観的要素が多く入り込み、幅が見られるため、慎重な対応が求められる。それは公正価値の客観性の評価問題である。経営者が発信する公正価値が投資者の意思決定に有用な会計情報として提供されるためには、公正価値は基本的には一つではない点から、監査では監査証拠を得るとき、説得的監査証拠をどれだけ入手するかにかかっている。全面的時価評価会計とその信頼性の保証の検討は、公認会計士業務の拡張をもたらすが、それに合わせて監査人としての責任も重くなることになる。そのための理論的研究はもとより、実証的研究も当然に必要となる。理論的研究の進展を鋭意行ってきたが、まだ完全な成果を得るには至っておらず、更なる研究が必要である。
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