研究概要 |
本研究の主たる目的は,(1)会計システムを1つの「制度」(institution)と見なしたうえで,近年の会計システム転換のプロセスを比較制度分析(comparative institutional analysis)の観点から分析すること,(2)進化経済学の諸成果に依拠しながら会計システムの変化や進歩を貫く固有の論理を明らかにすることの2つである。本年度は,藤井[2003]において公会計システムの転換プロセスを,藤井[2004]において企業会計における測定システムの変化のプロセスを,それぞれ取り上げ,比較制度分析の観点から検討を行った。 公的部門においては伝統的に,単式簿記にもとづく予算決算システムによって会計実務が処理されてきた。予算決算システムは歳入・歳出を関連法令や立法府の政策にもとづいて管理・執行するには適しているが,利用可能な資源の効率的配分や政策評価に資するシステムとしては機能しない。政府機関の財政状態と活動業績を明らかにするためには複式簿記にもとづく発生主義会計システムが,そしてまた行政サービスの経済性,効率性,有効性を把握・評価するためにはSEA報告(サービス提供の努力と成果に関する報告)が,それぞれ必要となる。これらのシステムは,それぞれ独自の機能領域を有していることから,相互排他的な関係にあるのではなく,相互に連携した重畳的関係にある。藤井[2003]では,以上のことを,アメリカにおける公会計改革を素材としながら明らかにした。こうしたシステム転換を推し進める背景要因となっているのは,政府規律主導型の経済システムから市場規律重視型の経済システムへの制度移行である。 企業会計における測定システムは,20世紀初頭の近代会計制度の確立以来,原価評価と時価評価の間を絶えず行き来してきた。それは,原価評価と時価評価はいずれも長所と短所を併せ持っており,各時代の政治的環境要因や経済的環境要因に促されて,一方の長所で他方の短所を補い合い,システムの均衡点を形成してきたからである。しかし,経済の金融化を背景に推し進められてきた1980年代以降の時価会計の領域拡張は,実現と配分を測定の主要な操作概念とする伝統的な発生主義会計を,時点的な仮定と見積りに依拠する公正価値会計に転換していく可能性を秘めている。この転換は,計算構造論の観点から言えば,会計の統計化を意味している。この転換を促しているのは,生産活動から金融活動への経済活動の主軸のシフトである。藤井[2004]では,以上のことを,アメリカ会計原則(U.S.-GAAP)および国際会計基準(IAS)を素材としながら明らかにした。
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