当該年度は、税効果会計の適用により示される貸借対照表項目である「繰延税金資産」および「繰延税金負債」(両者は、「繰延税金」と総称される)の性格と評価額、そして貸借対照表上の表示に関わる問題について研究を行った。その研究実績は、概ね次のとおりである。 1つには、近年、会計制度に広く導入されてきている割引現在価値の概念を、税効果会計にも適用しようとの考え方、すなわち繰延税金のディスカウント問題について、検討を行った。ディスカウントは、将来キャッシュフローを現在価値に割引くための処理であるため、将来キャッシュフローに基づいて評価されている貸借対照表項目がその対象となりえる。したがって繰延税金を一時差異等の解消期間の税率により把握する資産負債法の場合にのみ問題となりうる。現在、国際的には資産負債法が広く支持されており、繰延税金のディスカウントの可能性が存在するが、その制度化にはいずれの国々も極めて慎重である。こうした情勢のなか、イギリスが世界に先駆けて繰延税金のディスカウントを任意適用ではあるが制度化した。それは、すべての繰延税金を対象とするのではなく、金額上の重要性があり、長期的に解消しない繰延税金が対象とされる。但し、その適用上、解消スケジュールの確定やディスカウント率の確定について、今後検討されるべき余地があるものと思われる。 また1つには、わが国において社会問題ともなっている繰延税金について、貸借対照表上表示される金額の意味について、検討を行った。現行制度のもとでは、その原因となった資産または負債に従った流動と固定の区分や、繰延税金資産と繰延税金負債の相殺、加えて、費用である法人税等とは関わりをもたない資本直入項目に係る繰延税金の存在のために、貸借対照表上示される繰延税金の金額が意味するものが不明となっていることを指摘した。
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