本研究においては、まず繰延税金のディスカウント問題を取り上げた。日本を始め多くの国では、現在、繰延税金のディスカウントを禁止している。しかしイギリスでは、任意規定ながら、繰延税金のディスカウントを認めている国である。そこで特に、繰延税金のディスカウントについて、一般に議論されている内容に加えて、イギリス財務報告基準第19号(2000年)での議論を取り上げた。繰延税金のディスカウントそのものについては、それを行うのか否か、また行うとしてもディスカウント率がゼロではないかとの議論が見受けられる(結果的に、両者ともにディスカウントしないこととなる)。こうしたディスカウント否定の主たる論拠は、繰延税金が金融商品ではないことに求められる。また繰延税金のディスカウントを行うとした場合の課題は、ディスカウント率の決定、将来キャッシュフローのスケジューリングの確定などが考えられた。イギリスでは、限定的なディスカウント率が定められ、将来キャッシュフローのスケジューリングの確定については、十分には解決されているとは言い難い状況であった。 次にそもそも繰延税金のディスカウントの考え方が、税効果会計の処理方法のなかでどのように位置づけられるのかを明らかにすることとした。税効果会計には、税効果を差異発生期間の税金支払への影響として把握する考え方と、差異解消期間の税金支払いへの影響として把握する考え方という2つの考え方が対立して存在していること、繰延税金のディスカウントは、後者の考え方と関連していることが明らかとなった。 さらに、資本直入項目に係る繰延税金について検討を加えた。その結果、会計理論的には、資本直入項目とともに、それに係る繰延税金はその評価対象となった資産の評価勘定としての性格を有すると解された。
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