コーポレート・ガバナンスには経営上の意思決定についての仕組みを重視する立場、様々な利害関係者の相互関係や利害調整を重視する立場、さらに企業経営を通じた監視面を重視する立場などがある。このうちで財産目録と関係するのは前述の第3の立場に属する企業財産の管理機能面と、第2の立場に関連する利害関係者に対する情報提供面である。平成15年度においては、特に前者を中心に重点をおいて検討した。具体的には、企業財産のコントロールの面から財産目録を論じる場合、どのような手続のなかで財産目録を生かすかが問題となる。この点について検討した結果、、企業財産の実地棚卸を前提とした財産の数量計算及び金額計算に関する詳細なデータのうちで財産の金額計算については今日の簿記手続のなかでいえば、精算表の作成段階に盛り込む必要があることが判明した。これまでの精算表の一般的な様式では、決算整理前残高試算表・整理記入・損益計算書・貸借対照表といった8欄精算表となっている。そこには整理記入欄に財産目録の一部の記録が示されるけれども、その全部は示されないのである。しかし、コーポレート・ガバナンスの見地からは、整理記入欄に財産に関する実地棚卸結果の一部しか示されないのは問題である。特に財産の管理責任を明らかにするためには、財産目録の全容を精算表に明示させ、その実在高と当在高との間で生じる差異の発生原因とその管理責任を明確化させること不可欠であると解される。そのような新たな精算表も様式を導入することは、近年アングロサクソンの会計で強調されてきている資産負債アプローチという会計思考にも適合すると考えられるのである。このような点について詳細に検討を加えたのが「精算表の発展」と題する論文である。
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