今年度は、コーポレート・ガバナンスに関して特に先駆的な役割を果たしてきたとされる、OECDが1999年にはじめて公表し、後に2002年に改正されたコーポレート・ガバナンス論と、EUにおけるコーポレート・ガバナンス論についてまず検討を加えた。前者におけるコーポレート・ガバナンス論は、それがマクロ経済に関係するだけでなく、企業経営の運営に直結したメカニズムにも関係し、とりわけ会計上では債権者を保護する仕組みや、利害関係者に対するタイムリーで有用な会計情報の提供の面に関わるのがその特徴である。これに対して後者のコーポレート・ガバナンス論として、2002年1月に公表された「EU及びその加盟国に有用なコーポレート・ガバナンス規則に関する比較研究」(「比較研究報告書」)と、同じくそれを受けて2002年11月にEU委員会が公表した「ヨーロッパにおける会社法に関する現代的法制化に対するフレームワーク」(「ハイレベル・グループ報告書」)及び2003年にEU委員会がEU評議会及び議会に提出した「EU委員会報告書」を検討した。「比較研究報告書」及び「ハイレベル・グループ報告書」ではいずれも企業の社会的責任及び株主の利益保護が中心で、コーポレート・ガバナンスにおいて特に株主に対するディスクロージャー及び経営者の報酬と財務業績の開示が重視される。「EU委員会報告書」ではそれらを継承しながらも、EU加盟国全体に現実的に適用可能な内容となっているのがその特徴である。いずれにせよ、コーポレート・ガバナンスにおいて会計の果たす役割は大きいといえる。 次に、このようなコーポレート・ガバナンスにとって財産目録がどのような役割を果たしうるかについて検討した。その結果、情報提供手段として財産目録は役立つだけでなく、さらにそれは財産管理手段としてもまた大きな威力を発揮することが明らかになった。前者については外部情報提供手段と内部情報提供手段とが考えられる。後者については特に財産管理者に対する責任の所在の面で監視機能がある。
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