監査の需要に関して、次のようにモデルの精緻化を進めた。監査を受けることが誠実な経営者を示すというシグナルリング機能を基礎としたモデルに、チープトーク・モデルの要素を加えて拡張を試みた。その結果実験の設定の理論的基礎が明確にできた。実験は売り手(経営者)買い手(投資家)の一対一のゲームとして試みたかったため、被実験者の覆面化が非常に重要であった。従来の実験ではこれが不十分であったが、VB(ビジュアル・ベイシック)を用いたゲームの完全プログラミング化によってこの問題はかなり解消された。ただし大学における実験設備の不備のために、覆面化の問題の完全解消は難しかった。しかし実験要領を工夫することによって、ほぼこの問題は解消されたと考えている。もう1つの重要な問題として被実験者のやる気をどのように引き出すかという問題があったが、報酬の与え方に工夫を凝らすことにより、かなり現実に近づけたゲームができたと考えている。 実験は監査の買えるマーケットと買えないマーケットにおける売り手(経営者)と買い手(投資家)の行動を比較して、どのような変化が見られるかを検証するものである。条件を変えた2度の実験の結果は、いずれも監査の存在が売り手(経営者)の誠実な行動を引き出すことを検証できた。しかしいずれの実験でも買い手(投資家)の購買(投資)意欲を十分に引き出すことはできなかった。買い手(投資家)の購買(投資)意欲を引き出すには、監査コストを重くすることが必要であるということが考えられる。これはすでに1度実験で検証されているが、もう1度厳密な設定で再検証することが来年度の最大の課題と考えている。なお研究の成果は、今年度だけで2つの英文論文を含めた6つの論文と5つの国内外学会の報告にまとめられている。
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