株式保有の分散化にともなって、株式会社では所有と経営の分離が進展してきた。多くの場合、実質的な出資をともなわない専門経営者に会社の意思決定の権限は委譲されるが、たとえ委ねられた権限であっても、会社の事実上の支配権はまさに経営者に掌握されることになる。そうなると、経営者が株主の富を犠牲にしてでも自己の富を最大化させる行動をとるかもしれない。これは経営者と株主の利害の一致しない状況である。 経営に関する専門知識と経験をもつ経営者とそうでない株主との間にはつねに情報保有量の格差が生まれる。それゆえ、経営者が採算性の低い投資案を選択していたり、投資効率を無視したリスクの大きいプロジェクトを手がけたりしていても、株主は事後ですら経営者を正確に評価できないおそれが存在する。株主が経営者の逸脱行動を抑制しようとしても、情報劣位のためモニタリングを十分に行えない可能性が高くなる。 しかしながら、株式会社は、さまざまな問題をかかえながらも、今日なお経済活動を営む組織としてめざましい発展を遂げている。時に、スキャンダラスな不祥事が目につく場合もあるにせよ、そのような問題は日常的に頻発しているわけではない。これは、会社とその利害関係者、とりわけ経営者と株主の間の利害の対立から生ずる諸問題が最小限に抑えられているからで、コントロール・メカニズムが効率的に機能している証左でもある。 コントロール・メカニズムは実に多様であるが、その最も簡単な方法は、経営者の行動がもたらす成果の分配ルールを契約内容に盛り込むことである。経営者報酬契約がその一例で、これは、株主の利害に沿う行動には報奨を供与し、株主の利害に反する行動にはペナルティーを科すインセンティブ・システムである。この目的を達するには、企業業績と経営者報酬を連動させるシステムを構築するのが有効である。本研究は、経営者報酬と会計利益との間の実証的な関係を浮き彫りにすることを目指している。
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