研究概要 |
契約論ベースの会計研究では、さまざまな私的契約の支援において会計情報が利用されているという状況に着眼点がある。例えば、経営者と株主の利害対立を緩和するコントロール・メカニズムとして経営者報酬契約が有効であると論じられるが、黙示的であるかあるいは明示的であるかを問わず、その契約内容に会計情報が組み込まれている可能性は濃厚である。経営者報酬契約において、経営者報酬と会計情報(特に会計上の利益数値)との間の関係が強いほど経営者のインセンティブは高まると期待される。望ましい経営者行動を誘導するために、会計情報が経営者報酬と正にリンクしていることが鍵となる. 近年、日本企業における経営者報酬と会計利益の間の連動性を示す証拠が積み上げられつつある。さらに,経営者報酬契約において会計情報(特に、会計上の利益数値)がどの程度重要な役割を果たしているかを検誕する必要性があるが、経営者報酬と会計利益の連動性に関する一般的トレンドの存在について主眼をおいて考察した。現金報酬の決定要因として会計上の利益数値の役割はなお重大であるとしても、その役割がどの程度維持されているかはよくわかっていないのである。 1986年3月期から2002年3月期にわたって会計利益の変化に対する経営者報酬の感応度がどのような趨勢をたどっているかを検討する。主な結果は次の通りである。前期利益をベンチマークとする尺度を利用した場合、ゆるやかではあるが、その感応度は時系列的に有意に低下する傾向にあった。1996年を基準に産業ごとに経営者報酬と会計利益の関係を調べたが、前期よりも後期に会計利益に対する経営者報酬の感応度は平均的に低下していた。だたし、予想利益をベンチマークとする尺度を用いた場合、感応度が時系列に大きくは変化していないという証拠が得られることもあった。
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