平成15年度はこれまでの調査実績に基づき、中国において長期間にわたる都市比較調査を行う予定であったが、SARS問題の発生により、調査協力機関の外国人研究者に対する研究協力が閉鎖的状況に陥っていたこと、また北京・上海での調査を実施すると、その後の移動制約を受けることなどから、長春市の2週間にわたる聞き取り調査のみを実施した。今回の海外調査及び収集した資料により、以下の新たな知見を得ることができた。 1.北京・上海等大都市に比べ、内陸型中規模都市としては都市開発が遅れているといわれていた長春市も都市化が進み、市街地はもとより市郊外の再開発が加速化している。大学など研究機関や行政機関など大型施設が郊外に移転しているため、それに伴って関係者や学生をはじめ、多くの都市住民が市の中心部から郊外の新興住宅地へ移転している。これまでは大規模都市の問題でしかなかった都市化及びその郊外移転に伴う高齢者問題が長春市でもあらたに浮上している。 2.こうした郊外移転では現役で働く子女世代の居住条件が転居によって好転する場合が多いため、それに伴い、子女とともに高齢者も転居するケースと、高齢者がこれまでの居住環境からは離れず、子女との別居もしくは近居から遠居への移行に踏み切るケースとに大別することができる。 3.同居する場合は、高齢者がそれまで住んでいた住宅を処分し、それを子女世代の住宅購入資金にまわす事例が多くみられる。しかしこの郊外移転は、子女世代にとっては配偶者の通勤や子供の通学に関わる新たな問題の発生、高齢者世代にとっては、現役時代の職場や近隣住民との関係断絶など、高齢者自身の居住環境や人間関係が一変する状況が発生している。 4.また新興住宅地では近隣関係が充分に構築されておらず希薄であるうえ、若い世代を中心とする都市整備が中心であり、高齢者用施設をはじめとする高齢者の「居場所」が整備されているとは言いがたい。これら郊外移転に伴う問題は、医療・福祉施設の整備とともに今後の大きな課題となるものと予想される。
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