研究代表者は、平成15年いらい4年間にわたって社会科学における民族誌的方法のあり方について、社会調査の方法・技法論をめぐる言説の吟味を通してだけでなく、実際に民族誌的実践をおこなってきた研究者に対する聞きとりおよび実際におこなわれつつある調査実践活動の直接観察を通して検討してきた。その結果、対象分野によって主たる技法などにおいては違いもあるものの、いわゆる「質的研究」と呼ばれる研究アプローチについては、多くの共通点があることが明らかになった。 4年間にわたる総合的な研究実績のさらに具体的なポイントとしては、以下の4点があげられる。 1.定性的アプローチに関する認識の深まり.いわゆる「解釈学的転回」などにともない、変数中心の発想からより行為の意味や構造について焦点をおいた分析が、社会科学の各分野において重視されるようになってきていることが確認された。 2.文字テキストデータの重視.上記の認識の高まりは、一方で数値に還元し尽くせない文字テキストデータをはじめとする定性データが持つ意義を明らかにするものであることが確認できた。 3.定性データの処理技法の進展.文字テキストデータに関しては、さまざまなQDAソフトウェアが開発され、日本語などの「2バイト系」言語に関しても、その適用が可能となってきた。本研究の一貫として、海外の開発元との頻繁なやりとりをおこなった結果、同種ソフトの日本語による運用が相当程度改善されることになった。 4.調査対象者への配慮.人類学においてはいわゆる「ポストコロニアル転回」にともなって、調査それ自体が持つ政治性や調査される側への配慮の重要性が強調されてきたが、同様の傾向が社会学や経営学あるいは心理学についても確認できた。
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