本研究は、ミクロ社会学-視覚社会学的アプローチに基いて、視覚的身体像とその受容を題材に、「社会的世界の視覚的編制」に関わる経験的研究を企図するものである。研究初年度である本年は主に自叙的イメージ法による予備的作業を行なった。自叙的イメージ法は、人々の主観的視覚経験の世界を映像メディアを用いて視覚データ化し、その分析・検討を目指す。本年度は先行研究の追試的作業を兼ねて、人々が「自分自身をどう見るか」を焦点にした視覚データの収集と分析を試行し、およそ100人の研究対象(大学生)に対して自分自身に関わる写真撮影を依頼、得られた2500枚の写真をデータベース化した。あわせて、質問票(叙述シート)をもとに対象全員に対して撮影済写真についての説明記述を求め、さらに一部についてはこの説明を掘り下げるための詳細なインタビュー(イメージ誘出的インタビュー)を行なった。こうして得られた視覚的自己像には、先行研究とは異なって、ヒトよりもモノが多い頻度で出現していた。大学生がモノ準拠のストーリーを頼りに映像的自己語りをすること自体は考察に値する。しかしまたそれは、既存の自叙的イメージ法をなぞるだけでは本研究の目的にかなう分析素材--視覚的身体像--が充分に得られ難いことも意味している。他手法の併用と研究対象の拡大を予定している次年度の本格作業に向けて、研究デザイン-方法論の再検討を行なった。
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