本研究は、視覚的身体像とその受容を題材に、「社会的世界の視覚的編制」を主題とした、ミクロ社会学-視覚社会学的アプローチに基づく経験的研究を実施することを企図しておこなわれた。研究は自叙的写真法の試行を軸にして進められた。自叙的写真法とは本来、人々の主観的視覚経験の世界を写真撮影によってデータ化することを手掛かりにした、自己概念の研究法だった。本研究はこれを、映像メディアを活用した視覚経験それ自体の研究手法として改訂することを試みた。本研究の、「私自身が見る私」をテーマにした写真撮影プロジェクトには、研究期間中、計248人の大学生が参加し、総計6116点の自叙的写真が集められた。参加者はそれぞれ、撮影した写真のうち10点を選んで説明記述を求められ、それらの記述を含むすべてのドキュメントを収録した自叙的写真データベースが作成された。これらの写真のうち、説明記述のある2050点を、先行研究に準じた手続きでコーディングして内容分析し、加えて参加者の一部には写真説明の掘り下げをめざす詳細なインタビューを行なった。元来、自己概念の獲得・構成には他者との関係が重要だとされる。本研究でも人を被写体とする自叙的写真が多く見られた。ただし、本研究では他者を示す画像よりもモノの画像のほうが多く、また、女性の自叙的写真に人画像が多い等の先行研究の知見も確認できなかった。むしろ多様なモノ画像の出現が、"モノによる映像的自分語り"として注目され、今後の検討の焦点となった。結果として、当初の関心だった視覚的身体像に直接に関わるデータはあまり得られなかったが、本研究では主観的視覚世界の編制を探る拠点(モノ配置による世界の編制)が確認され、これを今後の研究再編の指針とすることとした。また、写真を手掛かりとした写真誘出的インタビューを通じて、視覚表象を説明するというそのこと自体が検討課題として浮かび上がった。
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