本年度は従来行ってきた巻町の各層住民リーダー聴き取り記録の再検討及び補充調査を行い、仮説の妥当を再度検証した。再確認したことは、巻町のような「伝統」や「地縁・血縁」関係の強固な「地方」おいては、主体となり得るのは地域を「生業の場」としている地付き層であるが、彼らだけでは既存の「枠」からの跳躍は不可能であり、それを媒介する主体の存在が必要になること、それが、従来は地域の意思決定力ら疎外されてきた「30代」「40代」の女性層を基盤とする住民たちであること、そしてその理由として、女性はそれまで地域社会のあらゆる領域の意思決定から疎外されて、それがゆえに伝統的スタイル=「男性」スタイルとしての上意下達的な意思決定スタイル・拘束的・義務的な活動スタイルに拘泥されない新たなモデルを提示し得たのであることである。さらに、本年度は比較検討の地域のうち、岐阜県御嵩町徳島県徳島市、新潟県刈羽村、三重県海山町等々の基本データを収集し、対象地域の政治的特徴、産業的特徴および文化的特質など調査のための基本的資料を集約・分析した。巻町の仮説が以上の住民投票が実施された他の「周縁」地域において妥当するかということについては、現在の資料収集結果の分析では肯定的な結果が得られているが、次年度以降の比較対象地の市民運動グループへの聴き取り調査で、さらに住民投票を可能にした諸要因を検討する中で明らかにしたい。今年度研究計画内容の大幅な修正が必要だと実感したのは、極めて日本的状況として評価していた、国ないし都道府県レベルの決定を遵守し、住民投票による住民の決定への直接的参加を拒絶していた上意下達的な意思決定スタイルの地域社会において住民投票が正当性を獲得しつつある状況が、韓国の地域社会においても顕在化している点(例えば典型的相似的例として「全羅北道扶安群の放射性廃棄物処埋場反対運動における自主管理の住民投票の実現」が挙げられる)である。つまり、計画の目的である、日本で構築されつつある(「市民的公共圏」とは多分に異なる)「公共圏」の複層的・多肩的な構造とその可能性を明らかにするためには、民主主義の強化過程consolidationにあって市民社会確立・成熟化とともに伝統的規範・旧来からの社会関係が相克・葛藤している(日本とのタイムラグはあるものの)同様の過程を経験している韓国を「写し鏡」としてその異同を検討することが必要であるということである。そのような国際比較を踏まえて初めて、比較可能は「公共圏」研究として、本研究の意味は更に高まるものと思われる。
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