研究概要 |
本年度は,理論的研究としては,前年度に引き続き,質的インタビュー論の新展開について,文献研究を続行した。今年度は特に,「質的研究革命」を踏まえながら,バランスのとれた視点から,質的インタビュー調査論を展開しているS・クヴァルの研究(Inter-Views,1996)について検討を行なった。調査設計から報告書作成に至るインタビュー調査の7段階論,「構築的妥当性」という代替規準の提案など,今後の質的インタビューの前進に資する示唆を引き出すことができた。 一方、経験的研究としては、前年度に引き続き,現代日本における「農」をめぐる日常言説の経験的資料の収集と分析を進めた。今年度は特に,農業当事者(農業者,農家成員など)において,「農」を意味づける種々の語藁や論理がどのように布置しているか,また,支配的意味への対抗的な意味形成がどのように行なわれているかに注目した。前者については,『日本農業新聞』の読者投稿(直近1年間,約500件)の詳しい分析を試みた。また,後者については,福井県内の農業者ネットワーク・メンバー対象の個人およびグループインタビューを実施して,インタビュー記録の分析を進めた。このインタビュー分析からは,例えば,前者の投稿に頻出する,「安全」,「環境」,「多面的機能」,「地産地消」などへの,アンビバレントな態度(共感と違和),自身の営農経験に即した「読み替え(誤読)」など,興味深い知見を引き出すことができた。
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