本研究は、(1)住民主導の教育システムづくりの実践として、大阪府寝屋川市で展開されている「寺子屋Neyagawa」の活動、(2)住民主導の医療システムづくりの実践として、京都市小野郷地区における「地域医療の拠点づくり」の活動をとりあげ、「住民主導による教育システム・医療システムの構築」を通じた地域(コミュニティ)活性化に関して、その可能性を検討しようとするものである。今年度は、上記の(1)、(2)ともに現場の動きが一応の安定状態に入ったこともあり、主として、前年度までの(当事者と研究者の)協同的実践の成果を理論的に考察し、3年間の総括をすることに重点を置いた。具体的には、エンゲストロームの活動理論(activity theory)を援用し、(1)、(2)の活動が、現在主流となっている学校教育活動と医療活動を脱構築する活動(脱構築的活動、エンゲストロームの言うlearning activity)であることを明確にした。その成果は、「コミュニティのグループ・ダイナミックス」(京都大学学術出版会)の第3章と第4章に詳述した。 さらに今年度は、(1)、(2)の活動をさらに進展させるヒントを得るために、鳥取県智頭町で20年にわたって展開されている先駆的な地域活性化運動を検討し、同運動が住民主導の教育・医療システムづくりに持つ含意を検討した。その結果、とくに(2)については、診療所経営の住民主導化のみを進めるよりも、「地域の高齢者を地域の人々が支える」仕組みを構築する過程の一部に、住民主導の診療所を位置づけるという新しい方途が示唆された。
|