本研究は、認知症高齢者とその家族が抱える介護の問題点について、高齢者のライフコースと彼らの生活の質(quality of life : QOL)の関連性について検討を加えるために以下の3つの諸点を設定した。 1。高齢者の家族形態と生活満足度・QOLに関する調査研究 本研究では、平成15・16年度に高齢者施設に居住する認知症高齢者を対象に、彼らの家族・居住形態とQOLの関係について面接調査及び1日の生活に対する行動調査を実施した。その結果、調査対象者の出身地、居住地、職業等のような彼らの慣れ親しんだ地域、産み育ててきた子ども、職業等の項目にケース記録と対象者が語るライフコースの結果の整合性がみられた。また、認知症高齢者との信頼関係の蓄積、調査員のコミュニケーション能力の向上、調査項目の設計と複数のツールの開発等の工夫が課題となった。 2.大学生の介護体験・意識とコミュニケーションに関する実験的研究 社会的な要請もあり大学生の社会福祉士・介護福祉士等の取得率は上昇しているが、彼らの介護意識・体験について、実施されている教育プログラムを含めて検討している知見はいまだ少数である。そこで、平成16年度に一般大学生と社会福祉士等の取得希望学生に対する心理生理学的実験・資料収集を実施した。その結果、心理生理学的指標の変化は2群の間で有意差を認め、カリキュラムを含めた情報の与え方の違いが何らかの影響のあることが考えられた。 3.認知症高齢者の表情に関する資料収集 本研究では、認知症高齢者のコミュニケーションの基礎的検討を行うために、グループホームに居住する認知症高齢者及び家族の承諾を得て、平成16・17年度に認知症高齢者の表情表出に着目した資料の収集とグループホームでの調査を実施した。その結果、本人・家族の同意を得られて26名の認知症高齢者の表情表出画像を収集することができた。今後は、これらの資料に基づき、心理生理学的実験・調査を継続的に実施する。
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