グローバリゼーションの進展(=「ポスト新国際分業」への転換)と周辺社会の工業化に関する、あらかじめ設定した理論的仮説に基づいて研究課題を果たすために、マレーシアの現地調査を実施し、主として日系進出企業の現地工場の活動実態について聞き取り調査を行った。調査の結果、得られた暫定的な知見だけを列挙すれば、以下の通りである。 (1)近年の賃金上昇の帰結として、従来から生産システムの資本集約化(自動化)傾向が指摘されてきたが、今回の調査でもこの傾向は確認することができた。さらに、多くの企業がセル生産を導入にし、労働集約的な組立工程の効率化を図っていることは、資本集約化(自動化)の帰趨に影響を与えるように思われる。 (2)労働者に対する訓練に関しては、ほぼすべての企業において体系的に整備されていた。HRDFなどの制度も、ほぼすべての企業において利用されていた。 (3)品質管理についても、ほぼすべての企業において体系化されていた。これには、ISO9000シリーズの取得が大きな影響を与えている。 (4)労働者の「関与」を促進する小集団活動などの取組みは、その程度において企業間の差異が大きかった。労働組合やその他の協議機関は、多くの場合存在しなかった。つまり「専制的」労使関係が継続していた。 (5)サプライヤーとしてローカル企業と関係をとり結んでいる企業は、かなりの数に上っていた。やはり、ISO9000シリーズのもとで、サプライヤーに対する格付け、認定制度、指導が実施されていた。指摘されてきているように、こうしたサプライヤーは華人企業が多く、日系企業との取引関係が深化する過程で自らもISO9000シリーズを取得していることが明らかになった。 (6)インドネシア人などの外国人労働者については、多くの企業で利用していた。この点は、マレーシアにおける生産システムが依然として労働集約的で賃金水準が大きな影響を与えていることを示唆している。
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