本研究は、グローバル化の進展にともなって多国籍企業の戦略が変化し、国際分業のあり方がいわゆる新国際分業(NIDL)から「ポスト新国際分業(post-NIDL)」へと変容するとともに、それと軌を一にして世界システムにおける周辺(の一部)においては、多国籍企業によって付与される拠点としての役割が変化することによって、それらの社会が半周辺へと上昇(「半周辺化」)する可能性を検討するという大きな研究プロジェクトの一環である。とりわけ本研究においては、グローバル化の重要な一因が1985年以降の日本企業の本格的な多国籍化に求められるとの認識に基づいて、1980年代後半以降、とりわけ日本からの直接投資を受け入れてきたマレーシアを事例として選択し、そこに進出した日本企業の現地工場を対象とする実態調査を行い、あらかじめ設定した理論仮説を検証することを試みた。以下は、獲得された主な知見である。 (1)post-NIDLのもとでは、生産システムの資本集約化(自動化)が進展することが想定される。本研究の調査によって、この傾向が一定程度確認された。もっとも、多くの企業がセル生産を導入にし、労働集約的な組立工程の効率化を図っていることは、資本集約化(自動化)の帰趨に影響を与えるように思われる。 (2)post-NIDLのもとでは、労働者の技能形成が進展し、それとともに労使関係が労働者の「関与」を基調とするものに変容することが想定される。労働者に対する訓練に関しては、ほぼすべての企業において体系的に整備されていた。しかし、労働者の「関与」を促進する小集団活動などの取組みは、その程度において企業間の差異が大きかった。労働組合やその他の協議機関は、多くの場合存在しなかった。そのような意味で「専制的」労使関係が継続していた。 (3)post-NIDLのもとやは、多国籍企業とローカル企業とのあいだに多様な関係が形成されることが想定される。サプライヤーとしてローカル企業と関係をとり結んでいる企業は、かなりの数に上っていた。IS09000シリーズのもとで、サプライヤーに対する格付け、認定制度、指導が実施されていた。指摘されてきているように、もっとも、発注品については、プラスティック成型部品、板金部品などが多く、それほど高度な技術を必要とするものではないことも確認された。
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