本研究は、四国遍路道に関するこれまでの研究成果を踏まえて、第二次大戦後の急激な社会・経済的変動過程と車社会化の進行のなかで、四国の道路整備計画が進む一方、遍路道が一貫して再生産されていくメカニズムを、高齢化、リスク化、情報化といったマクロな社会過程の特質と仮説的に関連づけることにより、道の空間構成の再編過程を跡づけることを試みた。その場合、とくに、四国へのアクセスを含めて、陸の道、海の道、空の道といった人の身体移動を支える物理的空間の経験の特質の違いに注目し、それらと道を利用する人々の意味付与空間としての四国遍路道の社会・文化的空間構成へのかかわりを明らかにすることを課題とした。 まず、平成15年度においては、陸、海、空を含む物理的空間と社会・文化的意味空間の関係を捉える上で適切な地域の選定を中心に現地調査を行い、国、県、市町村行政レベルの道路行政政策と地域住民および道路利用者の道路空間構成のかかわりを明らかにするための資料収集とインタビューを行った結果、さぬき市、土佐清水市、鴨島町、小松島町、愛媛県上浮穴郡などが候補に上がった。平成16年度には、それぞれの地域ごとに、陸、海、空の3次元の空間的次元に注目しながら、第2次大戦後の各地域における道空間の再編の過程を、移動の効率化、観光化、世界遺産化、自然遊歩道、伝統文化志向などの社会文化的意味の交錯として捉えることにより、地域内の他の道路との関係のなかでとくに遍路道の空間構成の多元的特質を浮き彫りにすることを試みた。 その結果、四国へのアクセス手段の変容(とくに空路と高速道路網)による遍路道の空間構成の画一化傾向と、四国内自動車道路網の整備に伴うアクセスの容易さと困難さの両極化による遍路道の社会文化的意味の対抗的ローカリゼーションが現れていることが確認された。
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