二年にわたる研究計画のうち、初年度である本年度の課題は、非営利セクターと他のセクターとの相互作用をめぐる海外研究成果の収集と、事例調査の実施の二つであり、方法論としてはこれを日本の現実とも照らし合わせながら考察することが求められていた。 前者については、フィールドワークの対象地域であるイタリアの文献や報告書を中心に分析を行った。また事例調査については、ローマ市、ミラノ市、パヴィア市における社会的協同組合やその関連団体からヒアリングを行い、調査報告書の作成と仮説を提示した研究論文を執筆した。 成果として特記すべきは、イタリアにおいては、単位協同組合もさることながら、協同組合のネットワーク組織である事業連合において、市場に対する積極的な関わり合いが形成されている点である。その形成は二つのベクトルによって支えられている。一つは、市場に対する、ある意味での「適応」であり、今ひとつは、市場に対して新しい価値観や仕組みを投げかけようとする「介入」の方向性である。一見相反する二つのベクトルを有することによって、社会的協同組合が、市場との緊張ある連携を形成していることが事例等から仮説として導かれた。 また、合併に揺れる日本の中山間地域や、社会的排除の一例としての「ひきこもり」などを通じて、我が国における地域おこしや仕事おこしの課題についても取材を重ねた結果、一般的には社会的弱者とされる「高齢者」や「若年層」において、あらたな「仕事への回路」づくりが積極的に取り組まれていることが明確となった。これについては、田中を含む二名の共著によって、単行本『現場発スローな働き方と出会う』(岩波書店)を発刊した。 イタリアにおいては協同運動の背景とその制度化過程および制度化による各主体の変容を重点に展開し、日本においては協同運動の芽生えと制度化にむけた課題を示し得たのが本年度の研究成果である。(790字)
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