本研究は、「臨床社会学」の理論的、実践的な可能性を探求するという目的をもつものであり、まず理論面では、その源流の一つである、W.I.トマスを中心とした初期シカゴ学派における臨床社会学的パースペクティブやその理論的支柱であった当事のプラグマティズム哲学がつくりだした機能主義心理学や社会心理学、社会行動主義の検討をおこなった。特に、J.デューイの『経験としてのアート』を検討し、アートが他者へのコミュニケーションのなかにおける共感によって、共有され、社会的変化をもたらすという理論をその中心的なものとして導出した。そして、第二次シカゴ学派、シンボリック相互作用論へのその継承と展開を検討した。 次にその理論検討を基盤として、アートをフィールドとした臨床社会学の調査をおこなった。精神病院や知的障害者更生施設の絵画教室の展覧会、自己を描くドキュメンタリーの上映会等を共におこないながら、障害をもつ人々や、生きづらさを抱える人々の自己意識が、鑑賞者の共感的なコミュニケーションのなかで、いかに変化していくかという点を中心にエンパワメント的調査をおこない、その実践的な可能性に関して考察した。また同時に、社会とっても、精神病院のアトリエの活動は、生の多様性をわれわれに感じさせ、そのことを通じて、アートの世界の変化や社会の人々の障害に関する感じ方の変化をもたらしていたことをみてきた。そこには、従来の精神障害者へのステレオタイプな像、また偏見や障壁からわれわれを解放させてくれる意味が見られた。
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