研究課題
基盤研究(C)
高度経済成長の時代に、工場での危険な作業の管理、都市交通の管制と安全確保、金融機関での犯罪抑止のために導入された監視カメラは、その後の社会変化にともない、大きくその機能を拡大し、また日常生活の場面に普及した。とくに、大阪教育大学附属池田小学校事件以後、「学校の安全」が喫緊の課題となり、それに対応するために学校を対象としたセキュリティ・システムの導入がすすめられた。また、外国人の増加、不況の中での犯罪の増加などの要因が、日本の安全神話を崩壊させたとの説を一般化させ、結果として、さまざまな個人認証システムや監視装置、通報システムなどが産業化され、商店街やコンビニエンスストア、オフィスビル、一般住宅に浸透した。とりわけ、9.11同時多発テロ以降は、犯罪を抑止するためではなく、犯罪を未然に防ぐためのシステムのなかにカメラを核としたセキュリティ・システムが開発され、公共空間に設置されている。また地域コミュニティの喪失を原因だとみなす人びとは、「安全・安心」をキーワードにしたさまざまな地域活動を実践している。設備の面でも、社会活動の面でも、社会は、より監視を強化する方向に進んでいる。このような流れは、近世までの「囲い込み」による社会秩序維持の再構築の試みであるとも解釈できるが、昔の社会が「悪」を囲い込んでいたのに対し、現代は「善」を囲い込み、「悪」を排除する仕組みによって秩序維持をはかろうとしている。そのための技術が高度に進化した先に予測されるのは、人間を一定の基準によって機械的に選別するシステムの強化である。
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[HOGETSU, M. and Y. Shindo eds, 2005. Social Control in Contemporary Japan, Sekai-siso-sha, Kyoto, pp.1-482]
ページ: 174-188