1.前年度の研究から浮上した、グラムシの「政治社会-市民社会」論の自己包括的概念構造を解明するという新たな課題がひとまず果たされ、あらなめてグラムシ『獄中ノート』における「哲学」「人間」「国家」の諸概念の弁証法的構造を組織立てて論述することができた。 2.その上で、「人間」論については、これまでに発表してきた解読を前提にしつつ、新たに「人間的本性」概念と「ヒューマニティ」概念の区別と関連を明確化し、さらに「社会的諸関係の総体」である「人間的本性」の内的諸矛盾、および、諸個人間の性格的矛盾という「矛盾」の観点を導入して『ノート』の再読に取り組んだ結果、グラムシの人間論をより統合的かつ正確に捉えなおすことができた。 3.加えて、今年度の最大の成果は、『獄中ノート』におけるグラムシ自身の「研究プラン」(Q1プラン、Q8プラン)の推移と、これに関連する獄中書簡との分析を、『ノート』の実際の執筆過程に照らしながら進める作業を通して、『ノート』全体の主題構成を探り、そこから「4大主要テーマ」(イタリア知識人史、アメリカニズムとフォード主義、哲学、政治学)を分析仮説として析出することができたことである。そして同時に、そこから、先行研究としての竹村英輔、松田博両氏の『ノート』把握に関する見地を批判的に検討し、それらを乗り越える方向、課題を提示した。これにより、『ノート』全容解明への新たな橋頭堡を築きえた。
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