研究成果として次の諸点が明らかになった。 1.『ノート』全容を故竹村英輔氏は、一般的理論問題の考察と歴史具体的な個別諸事象の考察との「二重構造」として捉えたが、これを歴史研究と理論研究との二重構造として捉えなおし、前者に属する(1)イタリア知識人史、(2)アメリカニズムとフォード主義と、後者に属する(3)哲学、(4)政治学の諸主題を『ノート』の4大主要テーマとして把握することができる。 2.この4大主要テーマをも貫く『ノート』全体の統一的テーマは、新しい歴史主体の形成にあり、この主体として想定されているのは、「階級」(社会集団)と「人間」(個人)であり、「階級」は、(1)自己主体化の媒介としての自己の「知識人」層を自ら創造して自己包括的な複合的社会集団をなし、さらに(2)自己を主導者として包括する諸階級の「社会的ブロック」を構成して歴史の主導者となる。そして「人間」は、自己の個人性を中核にして自己が活動的諸関係をとり結ぶ他者および自然からなる自己包括的複合体をなして具体的な人間となる、と各々弁証法的に概念把握されている。 3.『ノート』全体において決定的な意義を有するのは上記(3)の「哲学」(実践の哲学)であり、この「哲学」は、「階級」および「人間」の自己主体化の哲学として、それ自体が、自己を自己に包括し、諸科学を包含した複合的体系としての広義「実践の哲学」となる。 4.前記(1)や(2)の歴史研究は、哲学研究の一側面として探究された歴史方法論と結びついている。その方法論は、(1)「哲学」を前提として含み、(2)その哲学を実際の歴史の研究における「方法論的規準」に翻訳・変換した「実際的諸基準」、(3)個別諸事象捕捉の方法としての「文献学」、の3次元から構成される。「実際的諸基準の体系的展覧」が「歴史叙述の理論」をなすとすれば、「諸基準」と「個別諸観察」の総体からなる前記(4)「政治学」は、そこから分化したものである
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