研究概要 |
平成16年度は本研究の2年目最終年に当たり、研究計画で示されたように、1年目に行った一次文献資料の収集とその読解を踏まえ、主に作業は総合的分析・解釈の方向へと進んでいった。資料は、19世紀フランスの精神科医の著作(シャルコー、ベルネーム、ピエール・ジャネ、エドガール・ベリヨン等)を中心としたものであるが、それにとどまらず、同時代の進化思想にかんする著作(ダーウィン、ウォーレス、クレマンス・ロワイエ等)ら、教育学の著作(ビュイッソン、コンパイレ等)、哲学の著作(ルヌーヴィエ、フイエ、ヴァレリー等)など、多岐に及ぶ。1年目終了の時点で、読解はまだ資料の全体にまでは至っておらず、2年目の当初は同様の作業が続けられた。当時の精神医学の知の内部において、催眠の理論がヒステリー研究の枠内から出てきたことは、本研究前から分かっていたことであるが、それにとどまらず、多重人格症例の研究や、人格障害の研究とも関連があることが明らかになってきた。また精神医学の知の外部でも、催眠の理論は教育・衛生などの分野で、幅広い拡がりをもっていたことも、まだ全貌は明らかではないものの輪郭は浮かび上がってきた。他方で、催眠の理論が確立する前史として、いわゆる「動物磁気説(メスメリスム)」を参照することが、比較対照の点で重要であることも見えてきた。 現在のところ研究成果を、研究報告書のかたちでまとめつつある。研究成果の一部はすでに拙著「道徳の在処を求めて--19世紀フランス社会思想の探求」(『西南学院大学フランス語フランス文学論集』no46,2005年3月)で発表されている。また2005年2月4日に京都大学人文科学研究所で開催された共同研究「1960年代の研究」例会においても、この研究成果の一部が生かされた。また研究代表者は、2005年2月から3月にかけて、フランスのエクス=マルセイユ第三大学に西南学院大学との交換研究員で赴いたが、当地において行った2回の講演も、この研究成果の一部が活用されたものである。
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