平成15年度は本研究は、主に事例調査をおこなった。また関連するテーマの研究会に参加するとともに、参考資料を収集して、ひろく関連分野の研究動向のなかに本研究の位置づけをはかった。 事例地としては、沖縄県八重山郡竹富町の竹富島をえらび、そこでの伝統的建造物群の保存(いわゆる「町並保存」)の活動を調査した。竹富島は伝建地区指定をうけてから10数年経るなかで、住民の世代交代もすすみ、一方で、観光産業の変化もあって、こんご町並保存をどのようにすすめていくのか岐路に立たされているといえる。集落内の主要な公共施設、共同利用施設の建て替えもほぼおわり、集落内の自動車交通を規制する集落外周道路も供用開始され、年間30万人の観光客が訪れる港湾ターミナルや環境省ビジターセンターの整備もされ、島内観光を受け入れるハード面での事業は整ったといえる。このようにある種「恵まれた」条件のなかにおいて、これらの施設を有効利用して島らしい生活の質を維持することを可能とする地域資源の管理主体・経営主体を形成することができるかどうかが、現在、竹富島のなかで模索されていることだろう。平成15年度末の3月25日〜27日は「東アジアの聖なる空間」という国際フォーラム(国際交流基金・沖縄県)が竹富島と那覇市で開催されたが、それも現在までの竹富島の生活の質を維持している、住民の生活と土着の信仰との関わりについて考察を深めるためのものであった。 平成15年度の本研究でえられた調査データをもとに、平成16年度はつぎのような2つのテーマの論支を執筆する予定である。(1)町並保存にみられる地域共有資源の管理・利用を、現代社会における公共性概念の再検討と関連させて論じる。(2)近年政策課題として取り上げられることの多い「景観」について、住民による地域資源管理組織の運営に注目して論じる。
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