ハンセン病専門医の書いた手記複数と、現在診療にあたっている「ハンセン病専門医」に該当する医師の名簿一覧を入手した。 複数の患者・療養所入所者に自分の治療にかかわった医師の話を聞いた。また、複数の専門医にインテンシブな聞き取りをおこなった。医師がハンセン病療養所にかかわりはじめたのが比較的最近の場合、それまでの医療現場での経験と比較して療養所における診療のあり方に疑問をもつこととなる。標準化されたハンセン病治療の方針を模索し、国際的標準と合致したその方針にもとづいて患者を診察し、治療方針を他の医師と共有する必要があると考えたときには、療養所内で症例研究の機会を設け、他の医師とのディスカッションを通して出来る限り確実な治療を進めていく--この一連の、臨床医として当然の行為が、古くからいる療養所医師によってときとして理解されないことに驚くという。療養所にもよるが、療養所勤務の医師であるからといって、かならずしもハンセン病の適切な治療ができているとはかぎらないということも聞き取りから明らかになった。おのおのの聞き取りは、録音を逐語的に起こし、当該医師にもどしてチェックしてもらった。 また、面会の約束をとりつけた医師から、あらためてこちらの調査の目的と方法を説明したとたん、調査拒否されるということがあった。そのとき、その医師はみずからを「ハンセン病専門医」ではなく「皮膚科医」として認識していることをあきらかにし、それゆえ本研究の課題に見合わないと言った。現在、訴訟期以降、ハンセン病問題は社会的に認知され、その問題の構図のなかにハンセン病専門医がおかれているとその医師は認識したのではないか、と解釈される。
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