今年度は、おおよそ3つの側面からハンセン病専門医にアプローチできた。第一は、退所者および入所者から自分とかかわりのあった医師についての語りから、第二は、療養所で基本科担当として勤務していた医師が元患者から訴えられた医療過誤事件を通して、第三は、長らくハンセン病専門医として国内の療養所に勤務し外来診療も担当し、現在はボランティアで流行地の研究をしている医師への聞き取りである。 ある退所者の場合、関わった医師が社会復帰をすすめてくれたおかげでいまの自分の人生があるという。該当する医師への聞き取りによって双方の関係を探るという課題があきらかになった。医療過誤事件は東京地裁において公判が開かれ、原告側証人として立った専門医の証言もあわせて、ハンセン病治療の実際と、MDT導入以降にもかかわらず完治出来なかった(むしろ障害の度合いを進めた)療養所内医療の「貧困」について具体的に知ることができた。まさにハンセン病医療自体が隔離状態におかれた結果、甚大な被害を受けることになった病者の一事例として記憶されるべき事件であった。結果は原告完全勝訴となったが、その後被告国側が控訴したため、審議は継続されることとなった。 医師への聞き取りと参与観察は、その医師が現在勤務するインドネシアにおいてなされた。その医師が所属する研究室がはじめておこなう濃厚感染地における疫学調査に同行し、疫学調査の実際と研究資料の整理および分析のための作業がどのようなものであるかを知った。それは、世界最先端のハンセン病研究・実験の発想、技術について学ぶことでもあった。また、実験室での仕事を終えたあと、医師自身のライフストーリーの聞き取りをおこなった。幼少のころの異文化体験、ハンセン病医になる動機、その後の研究課題の変遷、絶対隔離主義批判等々について、その思いとともに聞き取った。
|