本研究の目的は今日のホームレス問題の中核である中年単身労働者の失業問題としてホームレス問題を把握し、日本のホームレスの社会的性格を明らかにすることである。今年度はすでに川崎市で実施した3調査(「施設調査」「食料品支給事業利用者調査」「食料品登録者調査」)結果をふまえて(1)路上に暮らす者と施設利用している者の社会的性格の考察。(2)川崎を中心とする京浜工業地帯の変化と日雇い労働者の失業との相関についての考察。(3)オランダのホームレス政策を学ぶ研修を行った。以下に研究実績を報告する。 1.3調査結果を再分析した結果、路上から施設利用にいたるには一定の優先性があるのではなく、必ずしも施設利用の必要性が高い者が施設に結びついているのではないこと、食料品支給事業を利用しながら路上にある者の相対的困難が示された。また、「野宿者」として研究を開始したが、中高年労働者の生活問題としての視点が必要であることが明らかになった。 2.「労働力調査」「川崎市労働白書」「川崎市労働状況実態調査」などから川崎市を中心とする京浜工業地帯の産業・雇用状況の変化を整理した。バブル経済崩壊後同市の事業所、なかでも建設業、製造業の減少、日雇い求人の著しい減少が明らかになった。さらに、川崎ホームレスの年齢、建設業従事期間、来川崎時は全国の建設従業者の年齢階級別、地域別動向と一致するものであった。これらから、川崎ホームレスは、工業地帯の空洞化、受け皿であった建設業の縮小の中で生み出された失業者として位置づけることが出来た。 3.オランダのホームレス政策の基本はすべての者に対する所得保障と住宅保障であり、その責務は国と地方自治体にある。単一の定義ではなく、社会的性格に即した3つの定義で段階を踏んだ解決策が整備されていた。
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