本研究の目的は、日本のホームレスの中核である中年単身労働者の失業問題としてホームレス問題を考察し、日本のホームレスの特異性を明らかにすることである。この考察を通して、路上生活を余儀なくされている人々の生活の事実に即したホームレス問題の解決方法、自立支援方法を提示することができると考えている。 上記目的を達成するために、2002年川崎市野宿生活者実態調査(研究代表川上昌子)の3つの調査結果を再分析した。3つの調査とは、「食料支給事業登録者調査」、「食料支給事業利用者調査」(通称パン券調査)、「施設入所者調査」である。3つの調査を分析対象として、以下の研究を相互に関連付けながら行った。(1)施設入所者と路上生活を継続している者の社会的性格の相違を考察する。(2)国勢調査、労働緒統計、川崎市に関する諸統計・資料、川崎市関係者への聞き取りなどから川崎市での労働者の集積、雇用動向の変化を時系列的に跡付ける。(3)ホームレスを川崎市を中心とする京浜工業地帯の労働者の中に位置づけ、ホームレス化を失業問題として考察する。 以上の考察を通して2つの研究成果を得ることができた。 第1は、川崎労働市場において日雇労働者は常に必要とされた労働力であったが、1990年代後半に入り港湾労働の近代化・常用化、日雇求人の減少、基幹産業の移転・倒産が重なり就業機会が絶対的に縮小していることである。 第2は、寄せ場労働者ではなく、都市労働者として再分析したことで、ホームレスが2つの意味において拡散していることが明らかになった。ホームレスになる以前に働き、暮らしていた「通常」の地域の拡散と社会階層的拡散である。 日本のホームレスは働きたいが仕事を得ることができない人々であり、そのことが認識されていないことが問題であるといえよう。
|