本年度は都市部での高齢者の実態調査を行いながら、すでに実態調査を実施している農村部の分析結果との比較研究から都市部と農村部の高齢者問題の相関関係を分析し、今後の課題について考察した。現在、ベトナム政府の高齢者施策は、家族を中心とした社会政策を採っているが、ベトナム政府の高齢者政策と高齢者の生活実態とが大きく乖離している。その要因には、家族主義の崩壊や大衆社会の進捗による伝統的社会的構造の変化や都市部と農村部との社会文化も含めた地域格差が、結果的に今日の高齢者問題を大きくした要因として推測することができる。特に、農村部を中心に「高齢者単身世帯」や「高齢者夫婦世帯」が数多く出現している。今後の「高齢化社会」の動向と展望を考えると経済開発が直接的に高齢者の社会福祉対策につながるかとは必ずしもそうとは思わない。2000年には高齢者法が制定され、「高齢者は、国家および社会から法律の条項に基づき、支援、介護を受け、また、その役割の増進を行うようにする。すべての国民は、高齢者を敬愛し介護援助すべき義務を負う。(第2条)」と明記された。しかし、家族内での個人主義化が普遍化しつつあるなかで、高齢者への敬愛はもとより政府からの具体的な支援・援助が一部の高齢者を除いて遂行されていないことが調査研究結果から判明した。特に、農村で生活している高齢者は生活費も含めて深刻な生活問題を抱えている。また、都市に流入した高齢者の多くは不安定所得層を形成している。ここで重要なことは、高齢者にとっては「貧困」という状態から脱却することに注視することなく、日常生活全般を含めた高齢者福祉支援政策を社会政策としてアプローチすることが望まれる。また、過去のベトナム社会に対しての社会的貢献度・地位によって支援者が差別化されることなく、すべての高齢者が社会的援助を平等に享受できる高齢者福祉体制を構築することが重要課題である。
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