ベトナム政府の高齢者施策は、家族を中心とした社会政策を採っているが政府の高齢者政策と高齢者の生活実態とでは大きく乖離している。その要因には家族主義の崩壊や大衆社会の進捗による伝統的社会的構造の変化や「都市部」と「農村部」との社会文化も含めた地域格差が、結果的に今日の高齢者問題を大きくした要因として考えられる。特に、農村部では高齢者単身世帯や高齢者夫婦世帯が数多く出現している。そこでその要因を明確化するために、ベトナムの高齢者の生活実態調査研究および過去の調査研究成果を踏まえて、「高齢化社会」の諸課題と政策的矛盾も踏まえながら分析・考察を実施した。 その調査研究方法として、調査対象地域をホーチミン市と農村部のビントゥアン省のハム・タン県内に限定して調査研究を実施した。その調査結果から都市部と農村部の高齢者が抱える共通課題が数多くの難問が山積していることが明らかになった。特に、高齢者の日常生活では単なる経済的問題だけではなく、社会的疎外感など精神的問題を抱えている高齢者が多く存在している。 今後の「高齢化社会」を検討する際に、最も重要なことはベトナム政府としての高齢者福祉施策を明確な指針を明らかにすることである。また、この数年間に高齢者に関する法律が制度化されたが、その制度が一部の高齢者には適用されているが、高齢者全体にはその支援・援助対策が実施されていない現実が存在している。筆者が出会った貧困層の多くの高齢者にその傾向が顕著に見られる。決して不平等間の上下関係を論じないが、少なくてもその理由を明確化することが求められる。また、「ドイモイ政策」による産業政策優先は社会経済の発展の原動力を果たしているが、今後、「高齢化社会」を迎えるにあたって、必ずしも産業政策優先が高齢者の生活の質を高めるだけの高齢者福祉支援を充実化させる要因にはつながらないことを今回の研究で示唆することができた。
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