研究概要 |
日米の難病児親の会の役員にインタビューを行い,そこでどのようなストーリーあるいはメタファーが使われているかを分析した。その結果,日本の親の会では役員をめぐってtrapped leaders story(罠にかかったリーダーのストーリー)が話されていたことがわかった。それは「自分は役員にはなりたくなかったが,ならざるを得なかった」と自分の役員就任を受動的に語るというものである。これは受動的なリーダーシップを評価する日本の文化とかかわりがあるように思われる。会の歴史を語るときには,米国の親の会ではprogress story(発展のストーリー)が語られていた。それはそれぞれの文化を反映したストーリーになっている。日本の組織においては組織そのものを財産のメタファーで語ることがあり,一方では,米国の組織では金銭が組織の問題を語るときにシンボルとして語られるようだ。 セルフヘルプグループの新しいメタファーとして自己組織(self-organisation)をあげ,それがセルフヘルプグループの学術的研究および実践の発展に役立つ可能性を指摘した。特に日本の伝統的な相互扶助のメタファーは相互監視を含むものであると思われるため,その影響を否定するためにも自己組織のメタファーは有用であると思われる。 メタファーとストーリーの日米比較の研究においては,使われるメタファーやストーリーの違いが,背景にある文化の差異によるのか,それとも医療制度や非営利団体を支える社会制度の違いによるものなのか,その判断が難しい。そのため米国の研究協力者との間では,メタファーとストーリーの比較以前に,セルフヘルプグループの研究手法の差異に関心が移らざるをえなかった。
|