研究概要 |
姿勢維持は視覚、平衡感覚、体性感覚のモダリティーによって構成される。Wada, Sunaga & Nagai(2001)は、不安が重心動揺における前後方向軸の周波数成分に影響し、それが閉眼時には無くなることから姿勢維持における視覚優位性を明らかにした。また平成15年度研究結果より、重心動揺の総動揺面積、前後方向の最長動揺距離と状態不安の間に有意な正の相関関係を明らかにした(Ohno, Wada, Saitoh, Sunaga & Nagai,2004)。そこで本年度は、姿勢維持における視覚優位性について、視覚が妨害されたときの効果、視覚以外の感覚の効果、不安以外の感情の効果を検討した。 被験者として実験に参加することに同意した男女大学生が、まず不安(STAI)、ストレス対処法(SCI)、その他感情状態などの質問に回答した。まず白色の背景に被験者の目の高さに調整した直径17cmの黒色ターゲットをみて、重心動揺計に両足を平行において立った。開眼と閉眼で2回各1分間、重心動揺が測定された。次に両足を平行において重心動揺計に立ちながら、引き算を暗算で行い口頭で回答した。これを、開眼と閉眼の2回各1分間測定した。 暗算をしない場合、不安と開眼・閉眼時の重心動揺の結果は従来の研究結果を支持した。暗算は、外的視覚情報を遮断して内的視覚情報を利用した心的処理が必要とされ、姿勢維持における外的視覚手がかりの利用が妨害される。その結果暗算をすると、開眼・閉眼両方において、不安の高低による効果が消失した。これより、不安が高いほど姿勢維持に外的視覚情報に依存することが明らかになった。さらにストレス対処法の問題焦点型は、開眼時には閉眼時よりもより外的視覚情報を利用すること、それ以外の感覚は閉眼時の方がより利用されること、情動焦点型は、開眼と閉眼の差は認められないことが明らかになった。
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