本研究は組織とくに産業組織における組織体犯罪の発生と抑制に関して社会心理学的見地から実証研究を行うものである。研究1は、関係領域の文献・裁判事例などを資料として、組織体犯罪の定義を行い、発生のメカニズムの理論構成を検討した。メカニズムはその中心的心理的機制として集団罪悪感(Collective guilt)を置いた。まず組織体犯罪とは、集合的効果を目的として集団内メンバーに感知され、犯罪の実行者を含む複数の直接的・間接的関与者によって生じる不正行為であり、それは当該集団以外の人々に何らかの悪影響を与えるものである。また集合的罪悪感とは、集団を構成しているメンバーが集団効果のための結果として生じさせた集団の不正行為が、結果的に外集団の不利益をもたらしたことに対して抱く感情である。組織体犯罪はこのような集合的罪悪感が低下したときに生じやすいと仮定した。その先行条件の組織要因として、(1)役割の細分化と排他性、(2)役割認識、(3)規範化、(4)外集団認識、(5)集団内全体の見通しを仮定し、モデル化した。 研究2では、研究1を検証すべく、目的1、組織要因のうち犯罪発生を規定する要因の検討、2、それらの集合的罪悪感の影響関係から、調査を組んだ。対象者は産業組織の従事する300名である。結果は、組織の規定要因としては集団全体の見通しが低く、また集団内の規範が低下し、さらに役割認識が強い場合、さらにそれらは外集団の認識の低下、内集団志向が高くなった場合に組織体犯罪が発生することが明らかになった。しかしながら集合罪悪感は明確な規定とはならなかった。 研究3では、組織内で不祥事が発生した組織を対象にモデルを検証することである。また不祥事にかかわった対象者への面接を行った。これらの結果の検討は次年度でよりインテンシブに行う予定である。研究1、2の成果は、日本社会心理学会45回大会、および、国際心理学会28回大会で発表予定である。
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