| 研究概要 |
本研究は組織体としての逸脱・不正行為(organizational transgressions)の生起を社会心理学、組織心理学から解明し、組織の不正行為の容認にいたる心的メカニズムを明らかにし、現代社会に広がりつつあるモラルハザードを抑制する要因を明らかにすることを目的とした。具体的には不正行為の生起に影響を及ぼす組織集団に関する要因を軸としたモデルを構築し、それを検証しそれに基づいて抑止効果を検討することである。
まず本年度の実績としては、昨年度の2つの研究、文献研究、探索的調査の結果を2つの発表として社会心理学会(第45回大会、北星学園大学)で公表した。発表は評価・教示など多くの示唆から、次の研究の手がかりを得ることができた。
これらの研究成果を踏まえ、概念の見直しと操作変数の再考をした。そして、組織性違反行為として、公正観の低下、情報交換の少なさ、仕事の位置づけのなさ、仕事の排他性、役割認識、内集団志向、外集団認識の低下を仮定した。さらにこのような組織性としての違反行為の心的メカニズムのモデル構築に向け、その中心的概念として、集合罪悪感(collective guilt)を提起した。調査は、組織体犯罪を体験した企業従業員を対象にした。また直接に組織体犯罪に関与した従業員に対しても半構造的面接調査をおこなった。その結果、まず集合罪悪感は下位概念として「社会に対する申し訳なさ」「共有した責務・償い」「不正行為の後悔」が明らかになった。これらを結果変数として組織要因を重回帰分析、さらにはパス解析した結果、集合罪悪感を規定した要因は外集団認識低下、公正観の低下、情報交換の低下であった。つまり、社会にたいして事の重大さの認識が低いことが集合罪悪感を低下させ、また犯罪を誘発させた。また面接調査から、当事者の罪悪感は内部志向であり、コミュニケーションの少なさ、成果志向が犯罪を誘発していた。この成果の一部は、国際心理学会(International congress of Psychology,28^<th> in Beijing)で発表した。
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