研究概要 |
本研究の目的は、自己概念の安定性・変容性に及ぼす社会変動の影響を、以下の3点を中心に検討することであった。 1)自己概念の形成過程に関与する、社会・環境的要因に関し、文化の影響に加え、社会的変革の影響を検討する。この目的のため、社会体制が大きく変化した東欧圏(特にポーランド)を検討対象とする。 2)自己は社会的産物であるから、社会システムに適応的であろうとすれば、社会的変動に即応した自己概念が構成される。しかしそれは同時にそれまで形成されてきた自己との安定性・連続性と齟齬をきたすことになる。我々は既に、自己概念の安定性・一貫性の強固な追及は社会的適応の阻害要因になることを見出してきた(e.g.,金川ら,2001)。これを援用し、変化に対する自己概念の「柔軟性」と精神的健康の関係を精査し、自己概念の安定性と変容性のパラドックスについて統合的検討を試みる。 3)この問題を、自己概念の中心的側面の一つである、gender identityについても検討する。 以上の目的を遂行すべく、われわれは「柔軟な自己概念は社会的変動がもたらすストレスのバッファーとして作用するため、精神的健康を損なわないが、対照的に、強固な自己概念の安定性追求は社会的変動のストレス対処を阻害し、精神的健康を低下させるであるる」という仮説を検討した。 最終年度は本調査を実施した。調査対象者は、ポーランドの都市部、農村部から計568名、日本の都市部、農村部から185名である。自由記述回答および、アンケート調査への回答について、前者については定性的分析を、後者については、主として共分散構造分析を中心に分析を行った。
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