研究概要 |
本研究の目的は、1)自己概念の安定性・変容性の問題を、「自己は能動的発動者であると同時に、社会環境の産物である」という、パラドキシカルな基本特性について社会変動との関連で検討し、2)更にこの問題を自己概念の中心的側面の一つである、gender identityについても検討することであった。この目的のため、社会体制が大きく変化したポーランドを対象とし、日本との比較研究を実施した。最終年度の研究経過および研究成果は以下の涌りである。 (1)16年度のポーランドにおける聞き取り調査に関し調査対象者の拡大を図り、大規模調査を試みた。 (2)16年度に実施した自己概念の柔軟性と社会的環境への対処方法との関連に関する調査をgender identity研究に拡大し、政治的・経済的な社会変動及び社会における内集団の相対的地位の認知が,個人の社会に対する自己効力感や精神的健康度に及ぼす影響について検討した。社会的変動のポジティブさに関する認知と内集団の相対的地位(社会の男性優位性)の認知が,社会に対する自己効力感を仲介して精神的健康度を規定するというモデルを構築し、以下の仮説を検証した。 (1)ポーランドにおいて,男女とも自己効力感が高いほど精神的健康度は高く、(2)また男女とも,社会がポジティブな方向に変動していると認知するほど自己効力感が高いであろう、(3)女性については,社会の男性優位性の程度を高く認知するほど自己効力感が低く、(4)男性については,男性優位性の程度の認知は自己効力感を規定しないか,もしくはポジティブな影響を及ぼすであろう、(5)男女とも社会的かしこさが高いほど,自己効力感は高く、(6)また社会的かしこさは社会的変動及び男性優位性の認知と自己効力感との関係を調整するであろう、(7)以上は,日本のサンプルにも該当するであろう。 以上の結果、仮説(1)~(4)は概ね支持されたが、仮説(5)、(7)は不支持であった。仮説(6)については女性について支持された。社会的かしこさの緩和効果にジェンダー差が認められたことは予想外であった。今後は社会的かしこさ尺度の精緻化を行った上で,さらに調整効果について検討する必要がある。
|