本研究の目的は、日本文化における「自己」の特性が、どのように形作られ発達してゆくかを、文化心理学的観点と生涯発達心理学的観点の双方を総合して、実証的に解明することにある。具体的には、Markus&Kitayama(1991)による、西欧文化で優勢な相互独立的自己観と日本文化で一般的な相互協調的自己観の区分に立脚した上、研究代表者の従来の研究成果に基づく「相互協調的自己観が社会的比較を通じて直接的に内面化されて相互協調性が青年中・後期に確立し、それを基礎とした日本的相互独立性が成人期に生じ、老人期には相互協調性と相互独立性が統合される」というモデルを、縦断的資料に基づいて検討すると共に、青年中・後期に確立する自己スキーマとしての相互協調性の内容と構造について、更に検討を加えて明らかにすることを試みるもので、I.縦断追跡調査、II.無作為横断調査、III.実験的検討、の3つの研究計画に大別される。このうち今年度は、IとIIIの一部を実施し、大凡以下の如き結果を得た。 (1)現在青年期にある者(大学生)を対象とした縦断追跡調査:小学校高学年から追跡している対象者の内、昨年度の30名に加えて今年度も32名の資料を得た。児童期から青年期にかけて相互独立性は低下し、相互協調性は上昇するという、従来の横断資料による知見と昨年度得られた縦断的知見と一致する結果が得られた。 (2)現在若年成人期にある者を対象とした縦断追跡調査:1993・94年当時大学生であった対象者について約100名の資料を得た。青年後期から若年成人期にかけて相互協調性は低下し相互独立性は上昇するという従来の横断的知見のうち、前者と一致する知見が得られたが、後者については青年後期と同一水準に止まっていることが見出された。これについては来年度更に追加資料を収集し、明確な結論を得る必要がある。 (3)相互独立性/相互協調性自己スキーマの成立に関する実験的検討:大学生について追加資料を加え、相互協調性自己スキーマは青年期に成立し、独立性スキーマは老人期に至って漸く形成されるという従来の知見を補強・確定するを得た。
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