本研究の目的は、日本文化における「自己」の形成過程を実証的に解明することにある。Markus & Kitayama(1991)による、西欧文化で優勢な相互独立的自己観と日本文化で一般的な相互協調的自己観の区分に立脚し、「相互協調的自己観は青年中・後期に内面化され(1次的反映過程)、それを基礎とした日本的相互独立性が成人期に生じ(2次的反映過程)、老人期には相互協調性と相互独立性が統合される」という仮説について、主に以下の3研究により実証的検討を加えた。 (1)相互独立的-相互協調的自己観尺度を用いた児童期から老人期に至る横断的研究によれば、相互独立性は小学生から中学生にかけて低下し大学生までは低い水準に止まった後(女性の場合は若年成人期まで)、若年成人以降(女性は中年成人期以降)は上昇に転じ老人期まで上昇を続ける。相互協調性は、小学生から中学生にかけて低下した後、中学生から大学生にかけて上昇し、成人期には再び低下した後、老人期で再度上昇する、という従来の知見が再確認された。(2)児童期から若年成人期にわたる縦断的追跡研究によれば、ほぼ横断資料と一致する傾向が認められた。(3)青年期における1次的反映過程により相互協調的自己観が内面化され、それを基盤とした成人期の2次的反映過程を通じて相互独立的自己観が内面化されるという仮説は、自己スキーマ形成の観点に立つ実験的研究により確認された。 これらの知見に立脚し、(1)相互協調性が相互独立性より相互協調性優勢型、(2)相互独立性が相互協調性を凌ぐ相互独立性優勢型、(3)相互独立性と相互協調性を併せもつ独立性・協調性拮抗型、の3つの基本類型に個人を分類し、それぞれの類型を児童期から成人期に至る発達過程に位置づける「日本的自己の発達形成モデル」が提唱された。
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