さまざまな文化的背景を持つ学生を受け入れることが職業的には必然となっている大学教員にとって、異文化間トレランスは喫緊の課題であるといえよう。 本研究は、多文化共生のための諸条件の一つとして、「異文化間トレランス」に着目し、人間の心に潜む異文化に対する不寛容性をどう克服し、異文化を受容していくのかに関して心理的側面から考察し、異文化トレランスの発現のプロセスモデルを試案するものである。 本研究ではまず、「異文化間トレランス」という概念に関して先行知見をレビューし、本研究での概念定義を行なった。次に異文化間トレランスに影響を及ぼすと考えられる心理的要因を心理学の先行知見から探索した。次に日米大学教員を対象とした事例分析を通して、自分とは異なる文化的背景や民族的背景を持った人に対する異文化受容のスタンスを分析し、そこで得られた心理的要因を基に、異文化トレランスの発現のプロセスモデルを試案した。ここでは心理的要因を、ストレスフルなイベントに遭遇した際のコーピング選択に用いられる認知的評価、特定の他者に対する感情である対人感情およびそれに影響を及ぼす対人的動機、人が感情を持ったり行動を起こすときに持つ思考様式であるビリーフの3つの要因に限定した。 本研究では、プロセスモデルの構築を通して、イントレラントな行動を引き起こすと考えられる否定的対人感情を軽減し、トレラントな行動へと行動変容を促すための認知の枠組みの変容が一つの鍵となることを提案した。今後は、異文化の人々に対する壁や敵愾心、強い苦手意識に向き合い、自己の認知の枠組みを変容していく心理過程を実践研究の中で明らかにし、異文化間トレランス育成を目標に、このモデルの検証が行われなくてはならない。
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