過去2年間、学校における教師の評価活動をフィールドスタディー、調査研究する過程で、研究課題の大きな発展がみられた。教師の学校におけるさまざまな評価活動、つまり、1)授業における指導のモニタリングとしての評価から。2)テストの評価、通知表の成績評価、3)指導要録などの管理的評価などを対象として、観察かつ面接してデータを収集した。データに基づいて質的な考察をするとともに、独立行政法人・教員研修センターの研修プロジェクトに参加し、教員研修の中で評価活動を分析検討し、教師の評価能力の向上をめざす活動も行ってきた。過去の研究成果をまとめると、以下の5点になる。 1)教育評価の概念的分析を試み、フィールド・スタディー分析と比較考察をした。 2)指導と直結した評価活動、つまり、モニタリングや通知表、指導要録などの評価は、観点別評価と評定から構成されているが、フィールドスタディーから分かることは、観点という抽象概念的「カテゴリー」に準拠した評価になり、以下に述べるように、教師に評価活動における困難性、悩みの源になっている。 3)すなわち、カテゴリーによる評価活動は、教師が授業で自然な形で行っている評価活動との間に、ズレを生み出している。教師の授業におけるモニタリングとしての評価は、社会心理学における「印象形成」のメカニズムと不可分であることがわかる。 4)児童生徒に対する「印象形成」としての評価は、成績評価の観点であるカテゴリーと必ずしも合致するものではなく、教師に固有のまとまり方をしている。教師固有のまとまりと概念的カテゴリーとの間に意味の乖離が生まれている。理論的には、カテゴリー(観点)に準拠した評価活動は、演繹的思考、トップダウン思考であるのに対して、印象形成としての評価活動はボトムアップの帰納的思考である。学校における教師の評価活動は、二つの対比的な思考様式のかかわりの中で遂行されている。 5)教師の評価活動をフィールド・スタディーし、次の大きなテーマが浮上したので、分析・考察した。児童生徒の自己評価活動と学校における教師の評価活動との相互作用を解明することである。教育の核心は、学習者の自己教育、自己評価の上に成り立っていることを考えると、実証的に検討すべき大きな課題である。
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