初年度は調査的研究を中心に行っている。まず、現代の若者の感情を左右すると考えられる仮想的有能感という新しい構成概念を想定し、それを測定する尺度を、大学生を対象にして構成した。この尺度項目は従来のものとは異なり、直接、仮想的有能感を測定するものではなく、直接的には他者軽視の度合いを測定することで間接的に仮想的有能感を推測しようとするものである。その立場で11項目からなる内部一致性および再検査信頼性の一定程度高い尺度が作成された。また、仮想的有能感はあくまで本人の思い込みによる有能感で、経験的な根拠はないものなのでそれを一つの妥当性の基準として考えた。そこで、通常の有能感に近い概念である自尊感情も同時に測定し、ポジティブ経験、ネガティブ経験の度合いとの関係をみた。自尊感情はポジティブ経験、ネガティブ経験に左右される、すなわち、ポジティブ経験の多い方が自尊感情は高く、ネガティブ経験の多い方が自尊感情は低かった。しかし、仮想的有能感の高低はそのような過去の経験に左右されることは少なかった。ただし、仮想的有能感の高さと人間関係に関するネガティブな経験の多さとの間には高くはないが、正の関係がみられた。上述の研究内容については昨年の夏に行われた日本教育心理学会第45回総会『「仮想的有能感」をめぐって』の自主シンポジウムおよび8th European Congress of Psychologyで発表した。 次に個人的、社会的ネガティブ事象に対する「怒り-悲しみ」の相対的強度と仮想的有能感との関係を調査的に検討した。仮想的有能感の高い人は個人的事象については怒りを強く感じることが多いが、社会的事象については怒りも悲しみも感じないとする傾向が見出された。この研究結果については現在、Asia Pacific Education Reviewに投稿中である。
|