研究概要 |
一般に手話は,聴覚障害児のみならず,知的障害児,自閉症児,発達性失語症児など,音声言語の獲得が困難な障害児にも学習されやすいといわれている。しかし障害児の中には,手話の学習でさえ容易ならざるものが少なくない。手話を元として作られるサイン言語は,それらの子どもたちのために考案されたものであり,手話をさらに平易化した手指動作により成り立っている。本研究の目的は,言語発達障害児に獲得されやすい手話に関して,記憶および表象化過程の心理学的知識に基づいた予測を立て,これらを実際のコミュニケーション指導の中に導入し,その結果の評価および検討を行うこと,またこれらの変数と認知機能の障害の種類,程度との関係を解明することである。ここから得られた知見は,サイン言語の開発に貢献できるであろう。 第1年次は,全体的傾向を見るため,実験的統制を行わず現場でのデータを集め,分析した。対象は,養護学校中学部に在籍する自閉症男児3名女児1名,養護学校小学部に在籍する知的障害・脳性マヒの男児1名,大学の発達相談に来所する5歳自閉症男児1名である。養護学校では研究協力者(養護学校中学部,小学部教諭各1名),大学においては学生スタッフが手話,音声言語の同時使用によるコミュニケーション指導を行った。 第2年次は大学発達相談セッションにおいて,上記の自閉症男児1名の継続指導のほか,養護学校小学部に在籍する重度のダウン症児1名を新たに加え,同じく学生スタッフが自由遊び場面で同時法的なコミュニケーション指導を行った。本研究の当初の目的を達せられるのに十分な手話語彙の獲得が促進されなかったことから,用いられた機会利用型コミュニケーション指導の初期からの導入を含め,コミュニケーション指導における課題および問題点が論じら九た。これらの知見のコミュニケーション指導への活用が期待される。
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