研究概要 |
本年度は,公立小学校5年の担任をしているY教師(教職歴28年の女性)を対象として,教師が児童やその保護者に対して発行した学級だよりには,教師の暗黙知である児童観や教育観が表れるという仮説について検討した。教師用RCRTから明らかになる児童をとらえている視点と,平成16年度に発行された計34号の学級だよりにおけるメッセージ性のある単語及び記事内容の分析によって以下の点が明らかになった。 まず教師用RCRTより,Y教師は,誠実さ,好奇心,謙虚さ,天真爛漫の4つの視点で児童をとらえていることが明らかになった。Y教師にとっての理想の子どもは,誠実で,好奇心が強く,天真爛漫で,あまり謙虚でない児童であることがわかった。 つぎに,学級だより34号分における記事数は155記事,全単語数は12,809単語であった。メッセージ性のある単語を分類した結果,「誠実さ」に24単語,「好奇心」に35単語,「謙虚さ」に13単語,「天真爛漫」に37単語が分類できた。全246単語中109単語(割合にして44%)が教師用RCRTから抽出された4つの因子に分類できたことになる。単語だけでなく学級だよりの記事内容についても,155記事中121記事(78%)が4つの因子に分類できることがわかった。例えば,「誠実さ」に関連する記事には「掃除を真面目にしました」,「好奇心」に関連する記事には「田起こしが見たい」,「天真爛漫」に関連する記事には「おもしろい子どもの表現」などの記事があった。このことから,Y教師は教師用RCRTの結果と同様に,誠実さ,好奇心,謙虚さ,天真爛漫の4つの視点を重視して学級だよりを作成しており,学級だよりには,教師の暗黙知である児童観や教育観が表れるという仮説がある程度実証できたといえる。
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