本研究は、高機能自閉症児の社会性障害が彼らに特有な自己制御機能から生成されるとの仮説のもとに、彼らの社会性障害を改善する方策を探ることを目的とした。高機能自閉症児の指さし行動や「不自然な動作」が、それぞれの行動への自己制御が乏しい「無制御期」、他者の指示とそれに対応する自己の動作の相補的な随伴関係をなぞる「他者制御期」、そして、内的活動が脱文脈的に顕現化してしまうことで指さしやその他の動作が不自然になる「自己制御期」、の質的に異なる時期区分に従うことが明らかになった。また、無制御期や他者制御期にみられる指さし行動は、他者の指さしの理解や日常生活動作の獲得といった適応の手段として出現するのに対して、自己制御期に出現する指さし行動や「不自然な動作」は、内的世界における活動が現実世界において脱文脈的に顕現化し、彼らの社会的な適応を阻む要因となっていることが示唆された。高機能自閉症児に見られるこうした内的世界への没入現象は、「自閉的ファンタジー」と呼ばれている。「自閉的ファンタジー」の出現の契機を明らかにするために、高機能自閉症児と特定の他者との関係性について共同注意行動を尺度として分析したところ、二者の関係性が希薄な時期よりも、むしろ愛着関係が成立した後に、「自閉的ファンタジー」の出現頻度が高くなることが分かった。この研究を受けて、現在、「高機能広汎性発達障害児の社会性障害とファンタジー世界への傾倒」(平成18年度〜平成21年度、基盤研究(C))でファンタジー世界への傾倒を防ぎ、社会性障害を改善する手立てを検討中である。
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