研究概要 |
妄想の発生メカニズムとして有力視されている3つの仮説を検討した。すなわち、ベイズ仮説、「心の理論」仮説、原因帰属仮説の3つである。本年度は、臨床研究とアナログ研究の2つを同時にすすめた。臨床研究においては,妄想と統合失調症を持つ人を対象とした。アナログ研究とは、臨床群ではなく、一般の健常者(本研究では一般大学生)における精神病理を調べる研究である。臨床研究においては,統合失調症群を対象として,3つの課題をおこない、継時的に妄想的観念の変化を調べ、3つの課題成績がその後の妄想の発生をどれだけ予測するかを調べた。こうした準実験のパラダイムを用いることによって、妄想発生の因果関係を調べるものである。アナログ研究では、一般大学生を対象にして、課題の信頼性と妥当性の検討をおこなった。ベイズ仮説については、先行研究で多く用いられてきたビーズ玉課題とコイントス課題を検討した。「心の理論」仮説については、被調査者が成人であることを考慮して、成人用に開発されたヒント課題と視線課題を検討した。これらは自閉症研究において臨床的妥当性も確かめられているものである。原因帰属仮説については、帰属スタイル尺度(Seligmanら,1979),自己標的バイアス尺度(Fenigstein,1984),推論バイアス尺度(丹野・坂本,1997)などの質問紙法を検討した。従属変数としての妄想を測る方法としては、質問紙法の妄想観念チェックリスト(丹野・石垣,1997)と、構造化面接法のMAPI(対人観念多次元アセスメント)を用いた。これらの検討の結果、いずれの課題についても、その信頼性と妥当性が確かめられた。
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