研究概要 |
本研究は、妄想の発生メカニズムとして有力視されている3つの仮説を検討するものである。すなわち、ベイズ仮説、「心の理論」仮説、原因帰属仮説の3つである。本年度は、アナログ研究を中心として、ベイズ仮説をおもに検討した。これまで、妄想を持つ患者を対象とした研究において、ベイズ課題を用いた実験をおこなうと、妄想を持つ患者は、持たない患者に比べて、判断を下す際に、情報収集の量が少なく、自分の決断に対する確信度が高いことが知られている。これは「結論への飛躍」バイアスと呼ばれる。本年度はアナログ研究を中心に研究をすすめた。アナログ研究とは、臨床群ではなく、一般の健常者(本研究では一般大学生)における精神病理を調べる研究である。一般大学生を対象にして、妄想的観念が強い群と弱い群に分け、先行研究で多く用いられてきたビーズ玉課題を用いて検討した。その結果、妄想的観念が強い群は、弱い群に比べて、情報収集の量が少なく、自分の決断に対する確信度が高いことが確かめられた。つまり、妄想的観念が強い群は、弱い群に比べて、「結論への飛躍」が見られる。先行研究と合わせて考えると、妄想と妄想的観念の発生メカニズムには共通のものが存在することが示唆され、妄想と妄想的観念の連続説が支持される. また、社会的場面を想定したベイズ課題にすると,妄想的観念が強い群にも「結論への飛躍」バイアスはみられなくなった。このことから、妄想的観念が強い群も,対人場面においては、推論を慎重に行なうために、「結論への飛躍」バイアスはみられなくなると考えられた。こうした結果は、妄想的観念の指導や治療介入において示唆するところが多い。
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