本研究は、平成15年度からの3年間で、病気体験についての「語り」を中心に乳癌患者の心理状態を把握し、それに基づくスタッフの健康心理学的な理解と介入をめざすものである。今年度はその基礎を固めることを目的として、フィールドとなった病院の専門医およびスタッフの全面的な協力を得て、4種類の調査研究を行った。 一つには、今年度に初めて開催された患者会の参加者を対象として、QOLやHealth Locus of Control、病気体験の自由記述等に関する質問紙調査を行った。その結果、乳房全摘・部分切除などの術式や経過年数は患者のQOLには影響せず、また単身ないし夫婦のみ世帯の患者のほうが、子または親世代と同居する患者よりも環境に関するQOLが高いことなどが示された。さらに、内的コントロール感の強い患者ほど身体的・心理的・環境的QOLが高いことも見出された。これらの知見は、2004年夏の28th International Congress of Psychologyで報告する。また、この病院で手術を受ける患者を対象に術前から術後半年までの期間における不安傾向の追跡調査を行っており、新規患者を次々に加えながら100名程度の追跡を目指して、次年度まで継続する予定である。そのほか、協力の得られた患者18名についての個別面接を行い、病気体験や病気認知についての「語り」を得た。術前術後の不安調査やQOL・HLC等についての質問紙調査とあわせて、これらの結果は今後いくつかの関連学会での報告を予定している。さらに、看護師に対する健康心理学的教育の試験的な試みとして、心理学的視点と介入技法についての継続的な勉強会を行い、その成果についての評価を検討している。今後はこれらの一連の結果を細かく分析しながら、「語り」を基にした介入やスタッフ教育の計画を検討・実施していく予定である。
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